私達夫婦には2人の子供がいる。23才の長女と21才の長男だ。息子は高校卒業後消防士になった。ちいみや一家は、なかなかの都会に住んでおり、そこの消防士はかなりの難関だった。息子は高校在学中に猛勉強し、その狭き門を見事に突破してくれた。合格の知らせを受けたちいみや家は、久しぶりに幸せに包まれた。
この数年間ちいみや家は暗かった。
5年前にお義母さんが脳腫瘍で亡くなった。お義母さんは太陽の様な存在だった。その太陽が消えた。
ダンナとお義父さんは親子で自営業だったが、コロナで経営が傾いた。生活がかかっていたので、ダンナは会社勤めを選び、家業は廃業した。でも職場に恵まれず就職先を転々としていた。
本当にこの数年良いことが無かった。そんな中息子の消防士合格は、ちいみや家を明るく照らしてくれたのだった。
20日ほど前だったかな、息子が消防を辞めると言った。実は辞めたいと言ったのは初めてではない。最初の時は夫婦全力で説得して止めた。でも今回は2度目。息子と色々話をした。精神体力の限界ギリギリの毎日だったらしい。ただそれが辞める理由ではないとのこと。息子の考え、将来への思いを聞くと、私の知らないうちに大人になったな…と思い、私は辞めることを納得した。公務員という安定職、消防士というかっこいい職業を捨てるのはもったいないが、転職が当たり前のご時世だから、アリかなと思った。
息子も簡単に辞めると言ってる訳ではなかった。親の期待を裏切る罪悪感に苛まれて、かなり苦しんだ様だった。当然だろう。
でも、ダンナはそうじゃなかった。ダンナも職場問題で悩み苦しんでいた中で息子が消防士として頑張ってくれていたことが、唯一心の支えだったらしい。ダンナは消防士を辞めることに断固反対した。そしてついに心が壊れてしまった。よくある表現だが、何かの糸がプツッと切れてしまった様だった。
息子が外出した後、ダンナは「もう俺死ぬから」と言って、わーわー泣き出した。私は正直、息子が消防辞めると言ったことよりも、そっちが驚いた。ありえない！我が子が仕事辞めるくらいで自殺するかぁ？？私はお義父さんと、泣き喚くダンナを必死でなだめた。少し落ち着いたところで、お義父さんは「俺寝るから」と言って自分の寝室に行ってしまった。えっ、ちょっと待って…。お義父さんの寝る時間はとっくに過ぎていたんだが、お義父さんにとってダンナは息子。その息子が死にそうなのに、寝るんかーい。と心の中でツッコミを入れた。
息子の将来も心配だが、今はダンナの方がヤバい。こんなことで死なせちゃいけない。そんなバカみたいな終わり方って無い！なんとか元気にさせなきゃ。と心に誓った。
